詐欺師だった幼少時代

「詐欺師だった幼少時代」

確かにそのとおりだった。 当時住んでいた家には、庭がなかった。当然犬を置くスペースなどあるはずもなかったのだ。 子どもだったので、そのへんの事情を、何も考えなかった。 で、いったんはもらってきたものの、もらってきたその日に、子犬を抱えてひとり、その子のところまで返しにいった。 その子の家まで続くあの暗くて淋しい夜道のことは忘れられない。 その子はきっとあのあとお母さんに叱られたのに違いない。自分をこんな目に合わせた私を憎んで当然だろう。否は全て私にあるんだもの。本当に申し訳ないことをした。 子犬を渡すその日まで、そのこは何度も何度も私に確認してきたんだ。 「ほんまに。ほんまに、大丈夫なん?もらってくれるの?」 って何度も何度も。 そのたびに私は 「大丈夫やって、まかしといて」 と返事をしていたのだもの てっきり大丈夫だって思うに決まっている。 安心させようと思って名前まで先につけて、その子に伝えたのだもの。たちわるすぎ。 「健っていうねん、健康の健。家族で楽しみに待ってるから」 私は詐欺師だ。ペテン師だ。 楽しみに待っていたのは、弟と私だけだった。 両親には、子犬のことは、何にも話していなかった。

続く